要点
- 自社サイトのアクセスログを5か月分読み直したところ、ある営業支援ツールの画面から来た訪問が23件あった
- そのうち20件が、そのまま問い合わせフォームを送信していた
- 着地から送信までの最短記録は9秒。人が手で入力できる時間ではない
- 前回は「送信者はサービスを見ていない」ことを書いた。今回調べたのは、その送信者がどこから来ていたのか
前回の続きとして
営業メールの86%は、サービスページを一度も見ずに送られていた では、弊社に届く営業メールの送信者が、サービス紹介も制作実績も見ないままフォームを送っていることを、アクセスログから示した。
今回はその続きで、見る方向を変えた。送信者が「サイトの中で何をしたか」ではなく、「サイトに来る前にどこにいたか」である。
きっかけは、気になったサブドメインひとつ
営業メールが1通届いた。差出人の署名に attackable.masouken.com というサブドメインが入っていて、それが妙に気になった。
調べはじめたら、ついでにアクセスログのリファラ(どこから来たか)を全部集計することになった。そこで、まったく予期していないものが出てきた。
検索エンジンでも SNS でもない。営業支援ツールのログイン画面のドメインだった。
「新規開拓営業プラットフォーム」を名乗るサービスで、営業リストの作成、電話やメールでのアプローチ、結果の分析、コールセンターの運営管理を1つにまとめている。営業担当者がログインして使うツールだ。
ツール名と提供会社は、ここでは伏せる。この記事で書きたいのは特定のツールの話ではなく、営業リストという仕組みの話だからだ。
つまりこのリファラは、誰かがそのツールの画面に表示された弊社の行をクリックして、そこから www.duxi.co.jp に飛んできた、という記録である。検索から来たのでもなく、よそのサイトのリンクをたどってきたのでもない。営業リストの中に弊社が1行として入っていて、その行から来ている。
リファラは普段あまり役に立たない項目だが、このときだけは決定的だった。訪問者の「出発点」が、営業データベースの内側だと分かってしまう。
23件のうち20件が送信していた
リファラがその営業支援ツールだった訪問を、IPアドレス単位で数えた。
| 件数 | |
|---|---|
| 訪問したIPアドレス | 23 |
| うち、問い合わせフォームを送信したIP | 20 |
| 送信しなかったIP | 3 |
期間は2026年5月2日から10月1日までの5か月。送信到達率は87%。
この数字の異常さは、普通のサイトの数字と並べるとはっきりする。コーポレートサイトを訪れた人が問い合わせまで進む率は、通常数パーセントあればよい方だ。そこを87%というのは、「サイトを見てから送るか決めた」のではない。送ることが決まっている状態でサイトに来ている。
着地先もそれを裏付けていた。23件のうち22件がトップページ。残る1件は、いきなり /contact/ を開いていた。サービス内容を見ていない。
最短記録は9秒
20件の送信の中で、もっとも速かった例をそのまま載せる。
07:40:21 GET / ← トップページに着地
07:40:30 POST 送信 ← 9秒後
この9秒のあいだに、トップページから /contact/ に移動し、氏名・会社名・メールアドレス・問い合わせ内容を全部埋め、送信ボタンを押している。
キーボードで打つのは不可能だ。コピーアンドペーストでも、項目を切り替えながら4〜5回貼るには足りない。人間の手ではこの時間にならない。
ただし、ここは慎重に書きたい。アクセスログが証明するのは「9秒で送信が届いた」という事実だけで、その裏側で何が動いていたかは分からない。フォームを自動で埋める仕組みがあったのか、ブラウザの自動入力を使ったのか、別の手段か、そこは特定できない。
それでも1つだけ言えることがある。フォームの上に書いてある注意文を、読んでいる時間はない。
本物の問い合わせは、ログで全く違う形をしている
比較のために、お仕事のご相談をいただいたときのログの形を書いておく。
| 営業リスト経由 | 本物の問い合わせ | |
|---|---|---|
| リファラ | 営業ツールの画面 | 検索、またはなし |
| 閲覧ページ | トップ → /contact/ の2ページ | 事業紹介や制作実績を複数 |
| 滞在時間 | 9〜30秒 | 数分から数十分 |
| 再訪問 | なし | 数日あけて戻ってくることも |
| アセットの読み込み | なし、またはHTMLのみ | CSS・画像・フォントを一通り |
最後の行が、実は一番分かりやすい。ブラウザでページを開けば、HTMLに続いてCSS、画像、フォント、JavaScriptが自動的に読み込まれ、ログに数十行並ぶ。HTMLだけが1行だけ記録されているなら、それは人が見ていない。
この差は後から計るものではなく、送信された瞬間に分かる。 前回の記事で作った、送信者の行動を記録する仕組みがそこを見ている。
注意文が効かない理由
弊社の問い合わせフォームには、「営業目的のご連絡はお断りしています」と明記してある。それでも減らなかった。
その理由が、今回のログではっきりした。注意文は「読んでから送るか決める人」にしか届かないが、営業リスト経由の送信はその順序で動いていない。
- 営業ツールのリストに、弊社が1行として登録される
- 担当者はその行を処理する。対象は会社ではなく、行だ
- サイトに行くのは、「検討するため」ではなく「フォームのURLを取るため」
- 文面はテンプレートとして準備済みで、送信内容にはサイトを見てから決める要素がない
この流れのどこにも、注意文を読む工程がない。読まれていないのではなく、読む工程がそもそも存在しない。
だから注意文を強い文言に書き換えても結果は変わらない。「社名を公開します」と書いても同じだ。注意文の強さを調整するのは、読んでくれる相手からしか返ってこない投資だった。
では、何をするか
注意文が届かないなら、届かなくても成立する仕組みに切り替える。弊社サイトでは3段に分けた。
1. ブラウザでない送信を止める
JavaScriptが一切動いていない送信は、その場でブロックする。人がブラウザでフォームを開けば、送信前に必ず何かしらの記録が残る。それが空ならブラウザ以外からの送信と判断する。
その代わり、誤判定を前提に設計する。ブロックしても内容は全部保存し、管理画面で件数を数え、送信者には「迷惑メールと判定しました」ではなく「JavaScriptを有効にしてください」と伝える。対策を入れたせいで本当のお客様を取りこぼしたら、対策の意味がない。
2. 残ったものを判定する
ブロックをすり抜けて、人が送ってくる営業メールは残る。これはルールでは判定できないので、内容と行動記録をあわせてAIに読ませ、通知メールの件名に判定を付ける。振り分けはしない。届くことは変えず、開く前に分かるようにするだけ。
3. 行動を記録する
今回の分析ができたのは、アクセスログが5か月分残っていたからだ。ログがなければ、「最近営業メールが多い気がする」で終わっていた。測れていないものは、減らせたかどうかも分からない。
同じ調査をやる方法
特殊なツールは使っていない。Apacheのアクセスログと、サーバーに入っているコマンドだけで済む。
まずリファラを集計する。誰かの画面から流れてきているなら、ここに出る。
awk -F'"' '{print $4}' /var/log/apache2/access.log \
| grep -v '^-$' | sort | uniq -c | sort -rn | head -30
気になるドメインが見つかったら、そこから来たIPを並べる。
grep -F '<気になったドメイン>' /var/log/apache2/access.log \
| awk '{print $1}' | sort -u
あとは、そのIPがフォームを送信したかを確かめる。Contact Form 7の送信先は feedback で終わるURLなので、それを探す。
grep -F '<IPアドレス>' /var/log/apache2/access.log \
| awk '{print $4, $7}'
着地時刻と送信時刻が並んで出るので、引き算すれば滞在秒数が出る。
これを23件分繰り返しただけで、この記事の数字は全部出る。所要30分ほど。
ちなみに、access.log がローテーションされていたら5か月前の記録は消えていて、この調査はできなかった。ログを放置していたのは単なる怠慢だが、おかげで分析ができた。
出典と注記
本文中の営業支援ツールに関する記述は、同サービスのログイン画面と、SaaS比較サイトに掲載されたサービス概要で確認した内容に基づく。ツール名と提供会社名は本稿では伏せた。
公開されているサービス説明では、主な機能はリスト作成・アプローチ・分析・マネジメントの4つとされている。フォーム送信を自動化する機能についての記載は、見当たらなかった。
本稿は「9秒で送信が届いた」というログ上の事実を述べたものであり、特定のツールが自動送信を行っていると主張するものではない。
また、リファラにそのツールのドメインが記録されていたという事実は、「その画面からリンクがたどられた」ことまでを示すものであって、その先の送信がそのツール経由で行われたことを示すものではない。